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オリンピックへの道 (2015年からの憂鬱 エピローグ)

2013 OCT 20 12:12:52 pm by 西 牟呂雄

2020年夏、東京オリンピックの開会式が華々しく開催された。新国立競技場に大観客が集まり各国の入場行進が始まっている。恐慌からは回復途上であるが史上最大規模(但し参加人数は最大でも何でもない)の入場行進の後、かつては海自の歌姫と言われた現国防海軍の華、今なお美しい三宅由佳莉中佐の澄み切った君が代の独唱が流れた。終わると同時に前回の東京オリンピックでも披露された大空への五輪が描かれる。それもブルーインパルスだけではない。国防空軍自慢の女性アクロバット・チーム、ピンク・フラワーズとのダブル・五輪なのだ。

昨年の尖閣事変の後、東アジアは様変わりした。中国は分裂し結果的には四つに割れた。正統な北京の共産中国、杭州を首都とした南宋共和国、内モンゴルから半島38度線までの中華合衆国、そしてダライ・ラマが復活させたチベットである。実は尖閣周辺はその後の第七艦隊および国防海軍による海上封鎖を経て、報復攻撃をすることなく静けさを取り戻し、今日に至るまで俗に言う独立混成旅団が駐屯している。竹島は中華合衆国と日本からの猛烈な圧力により無人化が図られた。親日の中華合衆国は積極的に平和共存主義を唱えて移民を奨励したため、突(ウィグル)・漢・蒙・満・鮮そして日といった諸民族協調のEU型国家に変貌したのである。無論、鉄壁の日米・日露の安全保障条約があったればこそであり、又背後には環日本海関税同盟の締結に向けて日本・中華合衆国・ロシア・韓国の交渉が着々と進んでいたからだった。

大観衆の中に感慨深い顔をした5人が並んで座っていた。向かって右から英(はなぶさ)・原辺(ばらべ)・椎野・出井・大和の面々である。英は事変後キャリア除隊しライフワークのアメリカ文学の研究に打ち込むことになっている。実際に骨折していたので早期除隊が認められたのだ。原辺と椎野も戦闘参加扱いになり、傷病除隊で年金がもらえるようになったのでサッサと辞めた。出井は大怪我だったものの一命を取りとめ、功一等で昇進、女性初の国防陸軍少将として防衛省幕僚になっていた。大和も戦果ありということでキャリア除隊が認められ、大学教授への道を進むことになっていた。ただ、原辺と椎野の傷病除隊に関しては、実際には帰隊の際に斜面を転がり落ちた時の大したことのない打ち身、捻挫、擦り傷、切り傷を、被弾によるケガということにして、大和が口裏を合わせてくれたからなのだが。

日が暮れ始め、そろそろ聖火が灯されクライマックスを迎える頃、帰りの混雑を避けるため5人は席を立って食事に行った。平和にこの日を迎えられたのは間違いなく混成旅団の戦友の犠牲の上に成り立っていることを実感できるのは、互いにこの仲間しかいないことを知っている。静かに過ごしたかったのだ。近況を報告し、乾杯した。
「出井閣下は現在は何をされていますか。」
「防衛省の幕僚第二部長です。インテリジェンス部門ですから皆さんが何をやっているか全部わかりますよ。」
「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
「大和君はどうしているのですか。」
「来年教授になれそうです。唯、色々やることが多くて研究の時間がけずられそうで困ってます。」
「閣下はご結婚はなさらないのですか。」
「誰も寄ってきません。諸君の誰かプロポーズしてくれませんか。」
「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
「椎野君は。」
「ハッ、基本プータローであります。ヒマでしょうがないので中華合衆国に移住しようかと考えてます。」
「それはピッタリです。情報をいただければ助かる。肩書きが無いのがうってつけです。当局は一切関知しませんからね。あはははは。」
「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
「原辺君は。」
「ハッ、自分もプーであります。戦友を弔いたいのですが300人も墓参りできないので靖国神社に300回行くのを目標にしています。」
「正確には施設部隊を入れて318人です。尚、尖閣事変は攻撃国を特定せずに解決したことになっていますから英霊扱いされません。靖国にはいないことになってますよ。」
「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
「知っています。ですから自分で私設靖国神社を造りました。」
「ナニッ。」「バカ。」
「山梨県富士吉田市に建てたあの掘っ立て小屋のことでしょう。」
「・・・・なんでご存知なんですか。」
「諸君は尖閣事変の生き残りですから。見られているんですよ。おっとこれはオフレコに。ははは。」

おしまい

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Categories:オリンピックへの道(2015年の憂鬱)

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